男装騎士~あなたの笑顔護ります~






その星の名は“アース”






“魔物”が生息する世界。






人々は、魔物への恐怖に怯え暮らしていた。







魔物は人を襲い。
人を喰らう。






残酷で、残忍な醜い化け物。







人々は、救いを求めるのだ。







神に?






いいえ。












“レッドアイ”を持つ








1000年に一度王族に生まれてくると云われる救いの王子に。







しかし、めでたくして生まれた王子は








「誰が死のうが生きようが、関係ない」







心を亡くした悲しい王子さまでした。








人々は嘆き悲しみ救いを求めます。









さて、誰に?







王子さまの心を溶かしてくれる、まだ見ぬ救世主に。









「ありがとうございました!」




道場に、元気な声が響く。
胴着から急いで制服に着替えた私、立花雪。


バタバタと慌ただしく道場を後にする。




「もう少しおしとやかにせんか!雪!」




後ろでお父さんの声がする。
この道場は、お父さんが作った道場だ。


生徒もそこそこいて、結構賑わっている。




「はーい!」



軽く聞き流しながら、学校に向かうため時間を気にして走る。





おしとやかに。
そんな単語私の辞書にはないのだ。



男の子に囲まれて過ごしてきた。
剣道をする女の子だって確かにいるけど、うちの道場はほとんどが男の子。
お父さんがかなり厳しいから、なかなか女の子は寄り付かないのだ。






そんな中で過ごした私は、すっかり男勝りのおしとやかのかけらもない女の子に成長したってわけ。
今になってお父さんが焦ってきてるの。



お父さんも、親なのね。

全国大会とかで何度も優勝している私を誇りに思っていただけの昔とは少し違うのか。


最近は、それよりもおしゃれとか他の事にも気を回せなんて言ってくる。




変なお父さん。





―・・・けて・・・






私は、ふと足を止めた。






―・・・たすけて・・・






「声・・・?」








私は辺りを見渡す。
なにも変わった様子はない、住宅街だ。




異様な雰囲気にのまれる。





助けてって、危ないんじゃ・・・。





―・・・すく・・・て・・・





声の場所は遠いのか、とぎれとぎれではっきりと聞こえない。




そして、次第に聞こえなくなった。





「いったいなんなの?」





怪訝に思いながら、ふと気づいた時間に慌てて走り出した。









「遅刻なんかして、剣道?」



休み時間、親友の中村佳奈が心配そうに聞いてきた。
私は朝のことを思い出し、首を横に振った。



「いや、なんか変な声が聞こえてさぁ」

「声?なにそれ?」

「わかんないのよ、それが。助けてって聞こえたんだけど、周りに誰もいなくて」


本当に不思議だった。
確かに聞こえたのに。
でも、声は途切れ途切れだって。
近くじゃなかったのかな?

だとしたら、大丈夫だったんだろうか。




「え、それってユーレイとか?こわー!」

「いやいや、そんなわけないじゃん!」



ユーレイなんて、いるわけない。
佳奈ったら何言い出すんだか。







「え、でもさ。誰もいなかったんでしょ?雪にしか聞こえてなかったかもよ!」

「はあ?」



佳奈はいたって本気らしい。
ユーレイなんて、私は信じてない。
そんな、目に見えないもの。


今まで見たことなんてないし。





「変なこと言わないでよ」

「えー、でも、気になるよね」

「まぁね」



私が見つけられなかったことで、困ってる人がいなければいいけど。





あー、もう。
気になって何も手につかないや。






私は学校が終わるとすぐに帰り支度をして、朝声を聞いた場所まで走った。
住宅街の一角。
声を聞いたあの場所に立つ。



耳をすましてみるけど、もうあの声は聞こえない。
もう時間もたってるし、あたりまえか・・・。


なんだったんだろう。




結局答えは出ないまま。
私はその場を後にした。



そして、夜。
眠っていた私は夢を見た。



あの声と同じ。




助けて。


そう、助けを呼ぶ声。