「女性というのが、少し面倒ですが、この際文句は言えません」
「は?ちょっと、なに?なんの話?」
意味不明な男の話に眉をひそめる。
「申し遅れました。私、フリーシア王国、王子付きの側近でありますグレンと申します。以後お見知りおきを」
「え?フリ?側近?なにそれ」
ちょっと、この人頭オカシイの?
逃げた方がいい感じ?
私は逃げ道を視線だけ動かして探す。
「最近魔物の動きが勢いを増しています。そのため、王子付きの騎士を探していまして。あなたが、それに相応しいと」
「ちょっとまって、全く話についていけない・・・」
全く理解できる単語が出てこない。
私がおかしいんだろうか。
いやいや、そんなことはないはず。
「騎士を探していると申しています」
「だから!それからして理解できないっていうの‼︎騎士ってなによ!なんかの競技の選手?」
「はい?」
「それに、王子ってなに?日本に王子さまなんていないでしょ!」
「はい?日本とはいったい?」
は・・・?
この人、どうかしてるの?
日本知らないとかおかしすぎるでしょ?
でも、なんだろうこの胸騒ぎ。
ポカンと浮かんだ一つの仮説。
信じたくなくて、必死にどこが綻びを探してる。
「ここは、フリーシアでしょう?あなたはどこか違う場所から来たとでも?」
「私は・・・」
「だとしても、あなたには騎士として働いていただきます」
「はっ⁉︎なんで‼︎」
有無を言わさない言葉。
騎士とか、おとぎ話とかでも聞くけど、王子さまとかを守るんでしょ?
なんで私が?
私、女だけど!
「拒否権はございません」
「い、嫌よ!」
「ならば、あなたを暴行罪で牢に入れるまで」
バッサリとそう言い放った。
「な、正当防衛でしょ!」
「いえ、これは過剰防衛でございます」
「なっ!卑怯よ!」
見てたくせに!
そうなる前に助けてくれたらよかったでしょ。
まさか。
そうやって、断れなくするためにわざと?
さ、最低だ。
意地悪!
「卑怯者」
「なんとでも」
「ふん、騎士になったからって、ちゃんとするとは限らないからね」
「いいえ、きちんと任務はこなしていただきます」
冷静な返しに私は言い負かされた感覚。
悔しい。
「では、参りましょう」
グレンに引き連れられ、私は仕方なく歩き出した。
どうなるの、私!
連れてこられたのは、どこかの家の一室。
周りはなにやらバタバタと用意をしていて。
しばらく放置された後、グレンがなにやら大荷物を持ってやってきた。
「これに着替えてください」
「はっ?なんで」
「そのような小汚い姿で王子の前に出ることは許しません」
いちいちきつい言い方。
もう少し優しく言ってくれればいいのに。
「・・・わかったわよ」
「では、時間がないのでお急ぎください」
私は言いなりになるしかないわけ?
でも、牢屋には入りたくない。
深くため息を吐いて、部屋の中に入った。
「ちょっと、なに?この格好」
「時間がかかりすぎですよ」
「そうじゃなくて!」
明らかに男物のような気がするんだけど。
騎士とか言ってたし、男女共用なのかな?
濃い紺色で、膝下まである長めの裾。
左胸には紋章が付けられている。
下は紐編みのブーツにインした細めのパンツ。
そして、極め付けはショートカットの金髪のカツラ。
「服は両用にしても、なんでカツラなの?」
「あいにく、金髪のウィッグしかなかったので、我慢してください」
「それ、答えになってないから」
理解できなくてウィッグだけは手に持って出てきた私。
私の本来の髪は腰くらいまである癖っ毛のためにウェーブした髪。
女の子らしく、とせめて物思いで伸ばした長い髪。
「あなたには、男性として過ごしていただきます」
グレンの言葉に一瞬思考が止まる。
「は、はあ⁉︎なんで⁉︎」
騎士になる上に性別までごまかさなきゃいけないの⁉︎
そんなの、ひどくない?
というか、さすがに男のフリなんて無理だよ。
「王子さまは女性がお嫌いなのです。なので、王子付きの騎士が女性というわけにはいかないのですよ」
「だったらわざわざ私じゃなくてもいいじゃない」
「あなたがいいわけではなく、あなたの腕を買っているんです」
ああ、そうですか・・・。
「絶対にバレないように気をつけてください」
「わ、わかったわよ・・・」
しぶしぶ長い髪をまとめ、ウィッグを被る。
本当にこれで大丈夫なのかな?
「今更ですが、お名前は」
「え、あ・・・立花雪です」
「雪さまですか。まぁ、名前はそのままでも問題ないでしょう」
問題ないって。
問題ありありだよ。
男のフリなんてしたことないのに。
王子って、どんな人なんだろう。
女嫌いなんて・・・。
とっつきにくい人だったら嫌だな。
性悪だったりして・・・。
不安しかない。
「こ、ここ・・・?」
グレンに再び連れられやってきたのは、見たこともないような豪勢なお城。
王子さまが住んでいるようなお城に開いた口が塞がらない。
わけもわからず付いてきたけど・・・。
本当にここは現実なんだろうか。
夢の中みたいだ。
私が住んでた世界はどこにいってしまったんだろう。
「急ぎますよ」
「あ、うん!」
「歩き方、気をつけてください。内股になってますよ」
「えっ?そんなこと言われても・・・」
歩き方なんて無意識なんだから無理だよ。
眉をひそめながら必死に大股で歩く。
城の中に案内され、赤いじゅうたんがひかれた階段を登る。
登って行った先の大きな重そうな扉の前で立ち止まる。
ここが、目的地のようだ。
「この先に、王子がいます。失礼のないように」
「え、この向こうにいるの?」
「敬語ですよ」
「あ、はぁい・・・」
私、好きでここにいるわけじゃないんだけど。
少しムッとしながら、反論したところで口で叶う相手じゃないことはなんとなくわかったから黙っておく。
グレンは、その大きな扉をトントンとノックする。
「はいれ」
静かな声が中から聞こえ、グレンは私を見るとドアノブに手をかけた。
グレンの手によって開かれていく扉。
私はごくりと息をのんだ。