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次の日、今日は誰も来ていなかった。


ただ、そこには霞でも鬼囮爺でもない人物がいた。


鏡花に背を向ける形でその人物は立っている。


鏡花はあまりに見覚えのある姿に目を見開き、言葉を紡ごうと口を震わせる。


「……っ、あ、あなたは誰?」


鏡花は確認のためにそう尋ねたのだが、それはくしくもあの出会の日と同じ言葉だった。


サアァと春特有の穏やかな風が流れていく。


その人物はくるりと体を回転させて、鏡花の方を向いた。


『彼』は両手を広げ、いつものように微笑み、こう言った。