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あの大雨以来、鏡花は桜花のもとを訪れた。
いつも二人で話していたような何気ない会話を桜花に語りかけるように話した。
ときどき、霞や霞に連れられて来た鬼囮爺(きがじい)と山の獣や妖たちの面白い話などを聞いた。
鬼囮爺はいつもプンプン怒っているような態度だが、鏡花を心配してのことと照れ隠しだと霞が言っていた。
ある日、いつものように桜花のもとを訪れると、先に鬼囮爺が来ていた。
鬼囮爺は小さな体で桜の木を見上げ、手を当てる。
「桜花様が雷に撃たれてから早三年か……。早いものじゃのぅ」
いつもの鬼囮爺にしてはしみじみとした、心からの言葉だった。
三年の月日が経ち、鏡花は十九になった。それでも桜花のもとを訪れることは続けていた。