沈黙の中、突っ立つまでいる二人。
誰も通らない道路。
イネ臭い田んぼ。
俺は何をしているのだろう……。
早く、帰らなければ!
ーーそう、思えば思うほど、この帽子を返すのに無駄にためらってしまう。
ええぇい‼︎
男は度胸‼︎‼︎
「じゃな。」
スタスタスタっ…………。
どうだ!
結構カッコよく決めれたんじゃないだろうか‼︎
フワフワ気分で家の方向に足を傾ける俺。
今日のご飯は赤飯かもしれない。
俺が、【男になった記念日】として。
「待ってよ‼︎」
不意に聞こえてくる声。
そうだ…。まだ、帽子を返していなかった。
「待ってよ、
それ、私のお気に入りなの……。
私のなの……!」
彼女の言葉が胸に突き刺さる。
そうか……。これは君の帽子か……。
うん、知ってる。
頭の中で独り言。
いや、むしろ妄想。
妄想と言えば、俺はさっきから君のコトばかり考えている。
好きな食べ物は何か。
好きな動物は何か。
好きなスポーツはなにか。
好きな芸能人は誰か。
好みのタイプはどんな人か。
ーー俺は、きっと欲張りなんだ。
いや、“きっと”じゃないな。
俺は、めちゃくちゃ欲張りなんだ。
君のコトを知りたいんだ。
汚いかもしれないけど、ごめんなさい。
けれど、それでも俺は君と明日も会いたい。
「また明日、この場所で。」
今度は、偶然でなく、約束をして。
彼女の顔を見た。
頬が少し赤らんでいる。
その様子を見ると、少なからず、
俺は彼女に嫌われてはいないようだ。