俺は彼女に帽子を返そうと思った。
ーーが、そのタイミングがつかめなくて、結局、ズルズルと長引かせてしまった。
今俺は、彼女の帽子をかぶったまま
森を下っている。
どうやって返そう…。
どうやって返そう…。
そのコトしか、頭に浮かばなかった。
「…………あっ」
光が見えてきたと思ったら、
最初に見た、鳥居がまた見えてきた。
俺は、もう森を下ってしまった。
まだ、帽子、返せてないのに……。
心の準備もできていないのに……。
俺は頭を悩ませる。
そして、同じように頭を悩ませていた
白い女の子が、後ろにいる。
ついてきてくれたのだ。
もしかしたら、この帽子を持っていたら明日も彼女に会えるだろうか?
幸せな妄想をした。
俺はその妄想に心を揺さぶられてしまう。
「ーー蓮。」
あぁ、ダメなのに……‼︎
「…………………へっ?」
驚いているじゃないか。
「……名前。
俺、【羽瀬川 蓮】(はせがわ れん)
って、言うんだ。」
自己紹介をした。
名前だけの。