「呼び出しか?」
「うん。女の子からね」
「…そうか」
「大したことじゃなかったから」
心配しないで、と口走ってハッとする。
何言ってるんだろう、私
「ごめん、心配なんてしてないよね」
バカみたいだ。
私はあの子とは違うから。
巧く生きていく術を知っているから
第一、エイルが私なんかの心配するはずない
「迎えが来るぞ。急ごう」
走り出した彼を慌てて追う
「ちょ、待ってよ!」
私たちにできた距離は、まるで
心を表しているかのよう。
どんどんどんどん、離れてく。
いつも触れないように気をつけて。
頭を触る、とかそういうことじゃなくて
本当は彼と肩を並べるのは私じゃないから
だから、私は彼と触れてはいけない
友達の枠を、越えるな
「…ハッ」
エイルが心配なんて、するわけないじゃないか。
だって、彼は。
誰より私を、恨んでいるのだから
図書室。
アイリと二人、歴史のコーナーで本を読んでいる
といっても距離はあるし、別々にだけど。
「なんか、アイリ今日変だよな」
心の中で呟いたつもりがどうやら口から出ていたみたいだ
慌てて彼女の反応をみる
ゆっくりとした仕草で瞳をあげ、そのまま何かを考えるようにまた瞳を下げる
「貴方に深く関わるなって、言われたから。」
なんだそれ。
「俺そんなこと一言も言ってないと思うけど」
「貴方から言われたわけじゃないわ」
「じゃあ、誰…」
言葉が続かなかったのは思い当たる人物が一人、みつかったから。
「あなただって、わかってるんでしょ?」
幼なじみ。
「リエ、か。」
なんで、俺がアイリが好きだってわかったんだろう。
女の勘だとしたら、恐ろしい
リエは幼なじみで。
これまでも俺が仲良くなると、その女子を遠ざけたりしていることは知っていた
でも、それは小さな独占欲で。
小さいころから側にいた俺が他の人と絡むのが面白くないんだろうと、思っていた。
だからこれまでそういうことがあっても見逃してきたんだ、
でも今回は。
俺が、本気だから。
本気、アイリが好きだから
「アイリ、嫌な思いさせてごめん。でも、俺はこれからもこうしてアイリと一緒にいたいよ」
「…そう。」
一言ぽつりとつぶやいて彼女はそのまま視線を落とした。
「アイリはいつも、何を読んでるの?」
「…歴史書」
「それは知ってるよ。いつも大陸のだよね?」
「そうね」
「髪の色的にも、金の国出身だよね」
「…ええ。そうよ」
きらきらと輝く金髪は、俺たちみたいな蒼髪からしたら憧れの的なんだ。
「この学校に転入してくるまで大陸の学校に?」
「…ええ」
「エイル…君も一緒に?」
「…」
無言は肯定を表す。
彼女の強く握られた拳をは、何を想ってるんだろう。
どうしてそんな辛そうな顔をするんだろう。