「付き合ってないよ」
いつもと同じ顔で、表情で、声で。
そう告げているのに
どこか無理矢理に見えるのは、俺の考え過ぎなのか
「そっか、変なこと聞いてゴメンな」
くるり、と体の向きを変えまた歩きだそうと一歩踏みだしたアイリ。
だけど、振り返らずに一言
「少なくとも、あの人は私のことが好きじゃないわ」
まるで嘲笑するように言い放った
表情は見えないけど、まるで泣いているみたいだった
誰もいなくなったそこで、俺は途方に暮れる
アイリの言い方から察するに。
アイリは少なくとも何らかの感情をエイルにいだいているようだ
「…弱ェ」
これだけのことで、胸がいたくなる俺は、本当にしょうもないやつだ
「アタシね!さっき___と話せたよ!」
「…よかったね?」
「うん!!___のおかげだよ」
私の幸せの裏で。
私の幸せの為に。
私が潰した彼女の笑顔は
きっと、もう
ミ ラ レ ナ イ
「はぁぁぁー」
マジでやっちまった。
何言ってんだよ、俺
まだそんなに仲も良くないのにあんなこと聞くなんて。
初めての想いで、どうやったらいいのか全然わかんねぇ
アイリの顔が、複雑そうで言葉を出すのさえ躊躇ってしまう雰囲気。
また一つ、彼女の顔が知れたけど、
でも、
「はぁぁー」
アイリはエイルがいいのか?
「あれれー、リク溜息なんてついて。恋いの悩みですかー?」
耳元から能天気なアキの声が聞こえて
休み時間の教室で一人でかんがえこんでいたことに気づいた
「…」
恋の悩み、なのか
「え、マジか。あのリクが女に…」
これは女子が泣くぞ、とどうでもいい事を呟きながら俺を見やるアキ。
コツン、と何かを落とす音がして
「……リエ?」
青白い顔でリエが立っていた。
「どーした」
落とした筆箱を拾い渡せば
「数学の教科書忘れちゃって借りようと思ったの!でも!全然平気!うん、他の子に借りる!」
何故か早口で弁解し始め
「じゃね!」
「あ、おい!」
脱兎の如く去っていった
「おい、なんだったんだよ」
意味わかんねーし。
「うわ、これはヤバいよ。マジヤバい」
修羅場になる、とぶつぶつ言うアキをあきれた目で見つめ、
またアイリについて考え始めた
だから、この時のリエのことなんてすぐ忘れてしまったんだ
コツリ、コツリ。
まだ新しいローファーを響かせ、放課後の静かな廊下を進む。
目指すは私の教室。
理由は簡単
「あ、アイリちゃん!」
この子、リエさん、だったかしら?
呼び出されたのよね
コソッと耳打ちされて、一瞬戸惑ったわ
「遅れてごめんなさい。それでお話って?」