あの、タバコくさいにおいしか自分は感じられなかった。



 あいつの吸うタバコたしあ、CHERRYのタバコのパッケージを見ると



 思い出していたくらいだから。だから、タバコの自販機は見れなかった。



 
 
 夢斗はこっちを見ているが、凝視できない。



 下をうつむいたまま、何分、いや何十分過ぎた。



 日ももう完全に落ちきる瞬間に。




 おでこにキスをされた。

 
 「じゃあ今日はこれまでねっ。」



 照れくさそうにいう彼は、はにかみながらいった。



 心臓の鼓動が早くなり、そのまま鼓動を感じながら、下をうつむいたましか

 できなかった。



 なぜか涙が出た。




 それを見た夢斗は




 「あっごめん、いやな気持つにさせたかな…。」




 必死に、両手を合わせて、拝むような姿勢で彼は謝り続けたが、自分は違った。


 「ううん。多分、嬉し涙だと思う。」




 精一杯の声を張り上げたつもりだったが、相手には多分小声しか聞こえなかったと思う。




 それでも、彼は優しい笑みで。



 「そっかぁ~、」



 と少し安心したような表情で、手を頭にやり、なでてくれた。

 
 正直、嬉しかった。
 
 男の人に頭をなでられるなんて、親以外なかったし、とても居心地のよさを感じた。

 そばに居たい。そう心底思えた、瞬間だった。


 人を好きになるのに、理由は要らない。



 好きだから好きといえる自分でありたいし、今は少しそうかもしれないと

 思った。



 外に出ると、少し挙動不審が続いたこの2,3ヶ月。



 嫌なことしか思い出されなかった、この2,3ヶ月。



 自分ではどうしようもできなかったこの2,3ヶ月。



 いろいろな人に本当に助けてくれたこの2,3ヶ月。




 一杯の記憶が、頭のなかでぐるぐる回っていた。

 


 
 夕暮れはやがて、闇となりかけたが、まだまだ地平線の下からは

 うっすら、太陽のこぼれ日が指していた。