epilogue.
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『ともちゃん!』
『どうしたの?まいちゃん』
『あたしね、ともちゃんとけっこんする!』
『ほんと?』
『うん!』
『ぜったい?』
『うん!』
『やったぁ!』
『けっこんしようね!』
『うん!ぼく、まいちゃんすき!』
『あたしも!ともちゃんすき!』
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episode1.
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懐かしい夢をみた。
さっきまで深い眠りに落ちていたのに、頬に笑みが溢れてくる。
隣には愛しい彼。
今ではもう呼ばないけれど、
「…ともちゃん」
閉じられた瞳に そっと唇をあてる。
懐かしい呼び名。
いつからだったかな、『ともちゃん』って呼ばなくなったのは。
そう思いながら、また深い眠りに落ちていく。
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episode2.
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「___…ぃ」
好きな人の声に似てる…。
「___…まい。起きて」
あ、ともの声だ…。
「……ん…とも……」
少し目を開けると、目の前には愛しい彼がいる。
「まい、目 覚めた?」
「…んー……」
まだ、ともの声が甘く響いてる。
「…目 覚めてないな」
ともが呆れたように笑った。
「…んぅー…?」
「目 覚ましてやろっか?」
いたずらっぽく笑う彼。
「…ん……?」
だんだんと暗くなる視界。
「今から目 覚ましてやる」
やわらかい感触。
優しく触れる彼の唇。
壊れないように、傷つけないように そっと触れる。
____…宝物のように、優しく。
「……ぷはっ…」
「…目 覚めた?」
口元に笑みを浮かべ、楽しそうに笑う。
「…ばかやろ」
「バカで結構〜♪」
「…もっかい ちゅーしやがれ…ばか」
「はいはい」
しかたないなと呟きながら、嬉しそうに唇を重ねる彼。
そんな彼が大好きでしかたない。
あたしを宝物のように大切にしてくれる。
壊れないように そっと触れる彼。
切ない顔で何度も大丈夫?と聞いてくれる彼。
こんなに幸せなことってない。
こんなにあたしを大切にしてくれる人に抱かれて、幸せな夢をみて、幸せな気分のまま 目が覚める。
あたしは初めてのできごとに、自分は幸せの絶頂にいるんだと思った。
それくらい素敵な 春の午後だった。
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episode3.
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2014年 4月9日 水曜日。
伊藤 真依。15歳。
誕生日を1ヶ月後に控え、本日、天野高校へ入学しました。
___…入学式って、変な感じがする。
中学で一番仲の良かった親友は地元を離れて、別の市の学校へ行ってしまった。
他にも仲の良い友達はたくさんいる。
元々、中学の同級生たちとは特別 仲が良い。
中学は規模が小さく、その中で私たちの学年は生徒が多い方だった。
男女合わせて49人。
1年生のときは50人だったけれど、1人の男の子が転校してしまった。
かといって、何が変わるわけでもなく、それまで通りの生活だった。
そんな少ない同級生たちと毎日騒いでいた日々。
すごく楽しかった。
とても、すごく…____。
「まいーーーー!」
遠くから名前を呼ばれ、はっとした。
「おーい!おはよー!」
50m程離れたところから手を振る小柄な女の子。
「ゆりのー!おはよー!」
あたしも負けないくらい手を振る。
石岡 百合乃。15歳。
先月 誕生日を迎えたばかりのピチピチの15歳。
「まい おはよ!クラス表 一緒に見に行こ!」
「うん いいよ!」
高校の制服に身を包んだ百合乃は、なんだか あたしの知らない人みたいだった。
中学の制服じゃないから見慣れないだけなんだろうけど。
…入学式はやっぱり苦手。
仲の良い友達も、知らない人みたい。
新しい空気に浮かれて、新しい環境にドキドキして、……精神的に疲れる。
_____…この学校に ともはいないし、ね…。
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episode 4.
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「えー…新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。この、麗らかな春の良き日に…___」
型通りの言葉。
入学式や卒業式の言葉って薄っぺらい。
つまらないけれど、とりあえず話している人の顔を見ていた。
____…ともがここにいたらなぁ…。
ふと、そう思った。
あたしとともは保育園からずっと一緒の幼馴染。
保育園のときから両想いだったけれど、なかなか素直になれずに、付き合い始めたのは中学2年生になる 少し前だった。
あれから もう2年が経つ。
あたしたちは それぞれの夢のために、別々の高校へ進学することを決めた。
…この選択は間違ってない。
確かに、そう思っていた。
お互いの将来を思って、それぞれの道に進むことは正しいことだ。
ただ、少し…苦しかった。
昨日は、もう簡単に会えなくなるという事実に押し潰されそうで、なかなか ともから離れられなかった。
門限を過ぎても、離れたくなくて、一生離れたくなくて、ずっと ともにしがみついてた。
……とも、そっちの高校は楽しくなりそうですか…?
…あたしは、……あたしは もう…___。
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