あたしの頭の中には一瞬

あの女の顔が浮かんだ。

そう。里奈を死に追いやった、

あの女の顔が。

でもよく見ると、若い女の人が

履くようなパンプス。

あたしは冷静さを取り戻し、

深呼吸をしながら靴を脱ぎ、

リビングに向かった。

「夏菜、お帰り」

そう言ったのは一樹。

横には彼女の希美さんの姿があった。

あのパンプスは希美さんのだったんだ。

あたしは胸を撫で下ろした。

「こんばんは。夏菜ちゃん」

希美さんには何度かあったことがある。

背が低く色白で可愛らしい。

女性というよりは、少し少女のような

雰囲気を漂わせている。

「こんばんは」

ペコリとお辞儀をして挨拶をする。

「夏菜ちゃんは礼儀正しいのね。

一樹とは大違い」

「うるせーな」

なんだか、ちょっと嫉妬。

あたしってブラコンなんだと

思い知らされた。

「夏菜、着替えてきて、ご飯食べなさい」

父の言葉に素直に従い部屋へ向かった。

「ただいまぁ」

だれもいない自分の部屋に向かって

つぶやくのは、あたしの日課。