「うん……」

泣いてるのを悟られないように、

そっと左手で涙を拭った。

二人を三日月が照らしていた。

家に帰ると、怒りの形相の父が

思いっきりあたしの頬をぶった。

「痛いっ」

ぶたれた頬がジンジンと痛む。

「親父、いきなりなにすんだよ!」

一樹があたしをかばう。

「お前はなんなんだ!俺に不満でも

あって、こんなことしたのか!?」

父の怒りは止まらない。

「親父、落ち着けよ!夏菜、

とりあえず中に入ろう?」

兄はあたしの手を引きリビングまで

連れていった。

「お前、なんでこんなことしたんだ!

俺への不満か?言ってみろ!」

一方的に怒鳴られたあたしは

泣きながら叫んだ。

「あたしのことなんて、なにも知らない

くせに、今さら父親面しないでよ!

お父さん、今まであたしに

なにかしてくれた!?あたし、

いらないんでしょ!?お兄ちゃんが

大事なんでしょ!?」

「なに言ってるんだ!」

「お父さんはなにもしてくれなかった。

あたしがレイプされたときも

お兄ちゃんのことばかり!

それで勝手に離婚して。あたしが援交

したって、なにも思わないんでしょ!?

あたしがレイプされて死にたいって

思っても、お父さんはなにも

感じないんでしょ!?いつだって

お父さんは、あたしを見てくれない!

昔に戻りたいよ……」

「夏菜……」

兄は優しく背中をさすってくれた。

あたしの顔は涙と鼻水でグチャグチャ。

そんな中、父が口を開いた。

「すまん……。夏菜がそんなに苦しんでた

なんて知らなかった。本当にすまない」

父がそう言って、涙をポロポロこぼし

土下座をした。

「夏菜がつらいときに、お父さんは

なんにもしてやれなかった。父親失格だ」

父は小さな声でつぶやいた。

父の背中はとても小さく見えた。

「ねぇ、お父さん。昔お父さんが

あたしに言ってくれたこと覚えてる?」

「あぁ。夏菜は俺の宝物だって」

「今も変わらない?」

「当たり前だろ。

でも俺にはそんな資格はない」

「お父さん……昔みたく戻れるかな?

またあたしを宝物だって思ってくれる?」

「当たり前じゃないか!」

あたしは父の胸に飛び込んだ。