そして布団の中で息を潜めた。

怖い。怖い。だれなの?

早くいなくなってよ。

足音は無情にも、

あたしの部屋の前で止まった。

ーコンコンー

ドアをノックする音。

手にも顔にも汗がにじんでいた。

「夏菜?俺だけど」

それは懐かしい声だった。

「一樹?」

あたしは布団から顔を出した。

そこには以前より少し痩せた

兄が立っていた。

「一樹、どうしたの?」

「親父からなにも聞いてないの?」

兄は目をまるくする。

あたしはうなずく。

「俺さ、今ガソリンスタンドで

バイトしてるんだ。俺のせいで夏菜には

つらい思いさせたと思う。本当にごめん」

そう言って、兄は土下座した。

「本当にごめん。里奈にも謝りたい。

今もなにも変わっていない!

お前たちに迷惑かけたけど、

大事な妹だから」

フローリングが涙で汚れていく。

兄の涙を見たのは、

おそらく初めてのことだった。

苦しんだのは、あたしだけじゃない。