｢ねぇ…｣
とてもか細い声だった。
何かが起こっているのは確かなのに、誰もそれを尋ねることも口を開く事さえ出来なかった。
そんな中の教室中に居る人の耳に届くには充分だった。
美香は声を発するのと同時に四人へ向かい歩き出した。
足音無くふらつきながら、でも身軽さを感じられる程に素早く、表情はそのままに。
足音が鳴らないようにするために美香は上履きを履かずにいた。
その上演劇部に所属していた事と元々の運動神経の良さもあり、素早く身軽に動くことも簡単だった。
美香が迫ってきていても四人は一歩も動かずにいた。
そして椅子から落ちた少年の前で美香は立ち止まりしゃがみ込んで言った。
｢ねぇ、なんであんな事…したの？｣
蒼白くそしてなるべく虚ろげな表情になるように尋ねた。
｢ひっ…｣
冷え性での冷えきった左手で美香は椅子から落ちた少年の頬を触ると、少年は再び小さな悲鳴を上げた。
｢ねぇ、凄く…痛かった…けど｣
そう言って美香は椅子から落ちた少年の頬から手を離し、立ち上がって着ていたカーディガンのボタンを外し始めた。
そのままカーディガンを脱ぎ床へと落とした瞬間、教室中の人間が驚き息を呑んだ。
小さな悲鳴も美香の耳に届いた。
美香の白い制服の脇腹辺りを直樹がが仕込んだ液体で赤く染まり、そこには和成が刃物でいれた切れ目も当然付いていた。
そして美香がその制服を捲ると―
教室中に悲鳴が木霊した。

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