準備を済ませて家を出る。今は夏なのでものすごく暑い。地獄だ。汗はシャツについて気持ち悪いし、せっかくセットした髪がうねる。ほんと最悪だ。いつも登校だけで汗をかくので着替えも常備。荷物になるしめんどくさいので嫌なのだが、私にはやらなければならない理由がある。だから少しも手を抜けない。

「ふぅ…」
やっと学校についた。徒歩20分なのにとんでもない汗の量だ。おそるべし"夏"。
「ゆーりちゃんっ♪」
「へ?」
急に声をかけられた。疲れていたせいか変な声が出る。話しかけてきたのは友達の一ノ瀬エリ。ハーフである。だがずっと日本にいたらしく、日本語はペラペラ。だが英語もパラペラ。羨ましい限りだ。
「どうしたの?エリ。」
「ううん♪特に用事はないよ。ただ見かけたから話しかけただけ♪おはよう♪」
「そっか、おはよう♪」
体中から音符やらキラキラやらの粒子が出ていそうな喋り方である。少し変わった子だけど、とてもいい子だ。
「早く教室行こ♪」
「うんっ。」
私とエリは教室に向かった。すると目の前に影が現れ、私の進行を妨げた。誰かにぶつかったのだ。ボフっと。
「わぁっ!ご、ごめんなさい!」
頭を下げてすぐ見上げると、そこには伊藤 稜という同じクラスの男がいた。
「あ、あ…」
私は挙動不審になってしまい、カオ○シ状態になっていた。
「別に。お前こそ大丈夫か。」
「へ?!」
話しかけられびっくりしてまたもや変な声を出してしまった。
「だ、だいじょうb…」
「あ・た・ま。」
彼は自分の頭を指さし、私を馬鹿にして笑って去っていった。
「なんなの?!あのひと!」
エリはすごく怒っていたが、私は怒りどころか喜びさえあった。なぜなら…
「優里、なんであんな奴のこと好きなの?」
「え、どこがって…」
そう、私はあいつが好きなのだ。好きな人がいるから、着替えだってなんだってやる。それが、私にできる精一杯のアピールだから…。
「もうっ、あいつに何かされたらすぐ言ってね!エリ飛んでいくから!」
エリはアンパン○ンが空を飛んでいる時のような格好をした。
「う、うん。ありがとう…」
私は苦笑いをして、頭を整理するために今起きた映像をリピートしていた。


エリ「……………。」