「あ、そうだ。お前に提案があってだな」
「提案?」
嫌な予感がする。
彼がいつも提案があるだとか頼みがあるだとかお願いがあるだとか言う時にはろくなことがない。
「学校……行くか?」
「学校?」
何がくるかと身構えていただけに全く想像もしていなかった言葉にすっとんきょうな声を出すれいん。
「そ。最近俺、理事長を任されてだな」
「…理事長」
理事長とはそう簡単に出来るものなのか。
男の口ぶりはまるで“なんかてきとーにやってみたら任されちった☆”と言わんばかりだった。
「で、お前学校行ったことないだろ?だからちゃんと青春を謳歌させてやりたいと思ってな」
しかしこんな森奥深くからどうやって通うというのか。
そもそもれいんをこの森に閉じ込めたのは親ではなかったか。
そう反論すると、いたってマイペースな返事が返ってきた。
「そのことなら大丈夫だ。金の工面はこちらでするし、学費もいらない。お前は俺の娘だからな。新しい家も用意する」
一体彼は何者なのか。
いくら理事長になったからといって、そんなすぐには貯まらないだろうし、れいんが幼いときからなんの躊躇も戸惑いもなく、金をどばどば大量に使ってはけろっとしてた。
全く謎な人物だ。
何はともあれ、こうしてれいんは産まれて始めて隔絶された森の奥深くから外に出ることが許されたのである。