「……どうして、生きてるの……?」


パシンッ!!


外山が思い切り花月の頬を叩いた。

「……」
花月はうつむいたまま何も言わない。
「舛里! 私達がどれだけ心配したか分かってるの?!
戸山が泣きながら訴える。
もういいだろ、そう言おうとしたけど阻止された。

「なにが、“生きてるの?”よ! 私達は舛里に生きててほしいの! 舛里が死んで、奈々舛(ななせ)さんや、里玖くん達が喜ぶとでも思ってんの?!」

奈々舛? きっと、花月のお姉さんだろう。

花月は戸山の言葉に目を見開き、うつむいた。
「……ごめん」
そのごめんは、俺たちに宛てたものだったのか、お姉さんや弟くんに宛てたものかは分からなかった。
きっと両方だろう。

「花月、俺、花月の話を負担に思った事なんて、なかったぞ?」
花月の前にしゃがみこみ笑顔で言う。
「……え? だって……」
控えようって言ったじゃん、そう花月は言いたかったのだろう。
「俺は、花月が話すことによって、負担がかかってるかと思ってた」
「そんなことないっ!」
俺の言葉を全力で否定してくれた。
……少し嬉しかった。

「それより花月、どうして倒れてたんだ ? 」
目覚めたという事は、薬は飲んでなかったのだろう。
「……わかんない。でも今日、私本当に熱があったんだ。だから、飲む前に倒れたのかもしれない……」
記憶を辿るようにそう教えてくれた。
「よかったな、飲む前で」
俺は笑顔で告げる。
言葉に詰まる花月。
「もう、こんなことすんなよ」
そう言って俺は花月の頭を撫でた。
「……う、ん……」

話がひと段落したところで、俺はさっきの紙を花月に見せた。
「で、これ」
花月の顔は驚きで満ちていく。
「お前、死ぬときまで人のこと考えてんの?」

どこまでも優しい奴―。

「だって……。全部読んだの…?」
睨むように、怒ったように。
「読んだ。最後、なんて書いていたんだ……?」
「言わない」
いつかのときのように即答。
この即答はその頃とは違う。
花月はそっぽを向いた。
そんな花月をからかってみる。
「ケチ」
「……い、いつか、教えるよ……」
観念したようにそう言ってくれた。

俺と戸山はその後、散らばった花月の部屋の掃除をして帰ることにした。
「舛里、もうこんなことしないでよね」
戸山は花月の手を握る。
「……うん。心配かけて、ごめん」
花月も戸山の手を握り返す。

「じゃあ、また明日なっ!」
俺はそう言うと花月の家を後にした。