「舛里は、自分の話のせいで、芦田の負担になっていると思ってた」

「違う。俺は……」
俺が花月を傷つけていると思ってたんだ。
あんなに悲しそうな顔をしながら話してくれるのが辛かったんだ。

「だったら、もっと話を聞いてあげてよ――。確かに、過去の話は、舛里にとっていい過去ではない」
まっすぐ俺を見て真剣な顔で続ける。
「でも、心を許した誰かに聞いてもらえるだけで、どれだけ楽になるか……。舛里は聞いてくれるだけでも楽になってたんだよ。芦田に話すことで傷ついてなんかない。」

俺が花月のためと思ってやったことは、花月のためじゃなかったのか?
俺の勝手な判断で、花月をもっと苦しめた。
最低だな、俺――。


「今日、舛里の家に行かない? お見舞い」
戸山の顔は笑顔だった。
「いいけど、…行ってもいいのか?」
俺はもう気まずくないけど、花月は気まずいかもしれない。
「当然。もし舛里が元気だったら誤解解きなよ」
心の声を読むかのように助言してくれた。

「花月は風邪なのか?」
風邪で休んでいるのか、本当に入院しているのか、俺と気まずいから休んでいるのか……。
「それがわかんないから、様子見に行くの」
戸山も知らないのか。

結局俺は放課後、戸山と一緒に花月の家へ様子を見に行くことになった。


――ピンポーン


「……出ないな」
数回チャイムを押して数分。
玄関の扉が開く気配はない。
「あれ、鍵、開いてる」
試しに扉に手をかけた戸山がつぶやく。
「絞め忘れじゃねぇの?」
「わかんない。入ってみよ」
勝手に入るのも悪い気がしたけど、戸山が入るならいいか、と思い俺も後に続く。

「おばさーん、お邪魔しまーす。舛里――、いる――??」
「……お邪魔しまーす」
声をかけながらどんどん進んでいく戸山。
どうやら誰もいる気配がない。
「舛里、部屋にいるのかな?」
そう言うと、戸山は2階へ上がっていった。
俺もその後に続く。

「舛里ー、いるー? 開けるよー??」
外山は部屋のドアを開けた。


――俺らは言葉を失った。

目の前には、ベッドに横たわる花月の姿。

「舛里っ!」
「花月!!」