「何しとんねん」
「……見て分かりませんか?」
振り向かずにそのまま深く刺そうとすると、ナイフを取り上げられた。
取り上げられた衝撃で、私の右の手の平にはうっすら切れ痕が残った。
じんわり血が滲み出てくる。
何だか痛いと感じなかった。
体の痛みよりも、心の痛みの方が遥かに上なんだと悟る。
私は憎しみに満ちた瞳で、その相手を見据える。
「止めいや」
「……何で、邪魔するんですか?」
「お前が間違っとるからや」
「……どうしてですか?私のどこが間違ってるんですか?」
私の問いかけに声の主、隼人先輩は唖然として私を見た。
どうして?だって先輩だって言ったじゃないの。
「こんなモン持って親友切り付けとるあたりから間違っとるやろ!」
「何で…だって先輩、言ったじゃないですか!嫉妬するのが当たり前だって!」
「せやかて傷付けてええとは言ってへん!!」
「………どうして……」
そういう意味じゃなかったの?
先輩は、そういう意味で言ってくれてたんじゃなかったの?
でも……それでもいいの……
杏奈を傷付けたのは私の意志。
そう…。涼を取り戻すためなら、間違ってたって構わない。
ドロ沼に落ちようが、
地獄に落ちようが、
そのまま死んでしまおうが、
構わない…―――