柔らかい風が吹いている。
すぐ近くで、草の香りがした。
ポカポカな陽射しが気持ち良くて、沙羅は寝返りをうつ。
「うー……ん。気持ちいい」
始終薬品のにおいが漂っていて、人工的な光しかない病院とは大違い。
ここでならぐっすり眠れそうだ。
いつまでも、ここにいたい。
外はこんなにも気持ちのいい場所なのだ。
そのことが、自然と沙羅の口をほころばせた。
体には1つのチューブも繋がっていない。
空を飛べると思えるほどに体も軽かった。
これも、神さまのおかげなのか。
それとも、異世界の効果なのか。
今日から、5年間。
沙羅は異世界で生きることができる。
その間に素敵な恋ができれば沙羅の勝ち。
沙羅は幸運を賭けた。
でも、神さまは何を賭けたのだろう?
私の運命でもかけたのかな?
沙羅は閉じていた目を開いて起き上がった
沙羅の長い黒髪を、風がそよそよとたなびかせる。
パッチリとした目は深い青。
これまで陽に当たることのなかった肌は真っ白。
頰はいつもより血行が良いのか赤く、健康的な可愛らしい女の子にしか見えなかった
起き上がった沙羅は、キョロキョロと辺りを見回した。
どうやら沙羅は、丘の中腹にいるようだ。
周りには遺跡のような石垣が、ぽつぽつと点在している。
沙羅はそのうちの1つに乗った。
そうすれば、小柄な沙羅でも遠くまで見える。