このまま時間が止まってしまえばいいのに……。
そう思った時、佑真君の声が鼓膜を震わせる。
「あのさ、葉月」
「何?」
「俺ももう少しこうしてたいのは山々なんだけどさ……」
段々と声が小さくなっていく雰囲気から、何か言いにくいものなのかと顔を上げて「ん?」と首を傾げる。
「そろそろこの場所は出た方がよくねぇか?」
「えっ?」
その言葉と共に、スッと佑真君が私の身体を自分から引き剥がした。
遠ざかる温もりにもの寂しさを感じるも、佑真君の言葉の意味を探るべく、キョロキョロと周りを見渡す。
入って来た時に目にした、手洗い場とその上に設置されている鏡。
ただよくよく見れば、今居る場所から少し奥には3個の個室。
そして、その反対側にはズラッと並んだ白い……小便器。
「ここって……」
「男子トイレ」
で、ですよね……。
「い、いやあぁぁぁぁぁあ!!」
大声で叫んで、走りながら男子トイレから出てきた女を無視出来る人なんて殆どいるわけもなく、その後、この場から離れるまで好奇の目に晒される事になったのは、所謂自業自得ってやつ…なんだと思う。