電車に乗るとヘッドホンを付けた男が座っていた。
音漏れが酷く、席が埋まるくらいの乗客が乗り合わせた車両内にヘッドホンから流れる音楽が響き渡っていたが、文句を言う人も不満そうな顔をする人もいなかった。
それどころか、みな執拗にその音楽を集中して聞こうとしているようにも思えた。
私は一種のその異様な光景に目を奪われ、私もまた乗客を魅了する音楽を正確に聞き取ろうと努力した。
その音楽は、実は、音楽と言って良いのか悩む代物だった。
音であることは確かなのだが、何かの楽器を演奏するといった類のものとは違っていて自然物からなる音の流れというのともまた違っていた。
奇妙なメロディに奇妙なリズム。
高音のようで低音。不協和音のようで心地よく、一定のようで定まらないビート感。
車内アナウンスや電車の揺れる音などもあるはずなのに、それが全く気にならない。
ヘッドホンを付けた男は20代後半くらいで、緑色の縁のない丸いサングラスをかけ、Gジャンにジーンズとデニム生地で全身を包み、60年代を彷彿させつつも、どこか未来的な雰囲気を醸し出していた。
若いカップルや初老の夫婦、仕事仲間らしいサラリーマンも数人乗り合わせていたのにお互いが会話することは、一切ない。次の駅に着くと、名残惜しそうに電車を降りていく乗客と、新しく乗り込んだ数人が先ほどの私と同じようなリアクションを取った後、同じようにその奇妙な音楽に耳を澄ませる。
そういう光景が何度か繰り返され、遂に私も目的の駅に着いてしまうときが来た。
音漏れが酷く、席が埋まるくらいの乗客が乗り合わせた車両内にヘッドホンから流れる音楽が響き渡っていたが、文句を言う人も不満そうな顔をする人もいなかった。
それどころか、みな執拗にその音楽を集中して聞こうとしているようにも思えた。
私は一種のその異様な光景に目を奪われ、私もまた乗客を魅了する音楽を正確に聞き取ろうと努力した。
その音楽は、実は、音楽と言って良いのか悩む代物だった。
音であることは確かなのだが、何かの楽器を演奏するといった類のものとは違っていて自然物からなる音の流れというのともまた違っていた。
奇妙なメロディに奇妙なリズム。
高音のようで低音。不協和音のようで心地よく、一定のようで定まらないビート感。
車内アナウンスや電車の揺れる音などもあるはずなのに、それが全く気にならない。
ヘッドホンを付けた男は20代後半くらいで、緑色の縁のない丸いサングラスをかけ、Gジャンにジーンズとデニム生地で全身を包み、60年代を彷彿させつつも、どこか未来的な雰囲気を醸し出していた。
若いカップルや初老の夫婦、仕事仲間らしいサラリーマンも数人乗り合わせていたのにお互いが会話することは、一切ない。次の駅に着くと、名残惜しそうに電車を降りていく乗客と、新しく乗り込んだ数人が先ほどの私と同じようなリアクションを取った後、同じようにその奇妙な音楽に耳を澄ませる。
そういう光景が何度か繰り返され、遂に私も目的の駅に着いてしまうときが来た。