「むつみさんが決めればいいんです」


「私は……」


政宗さんのことが好き。

愛しているといいたい。

けれど、今の政宗さんじゃあ、私の言葉が心の中へと入ってはこないだろう。

政宗さんの圧倒的に冷酷なそぶりをみて、口ごもってしまった。

気がつけば私の右手に視線を合わせていた。


「指輪、してくれてないんですね」


「……こ、これは」


「これも何かのメッセージのつもりでしょうかね。むつみさんに寂しい思いをさせたのは否めませんから」


「政宗さんっ。そうじゃなくて、指輪をなくしてしまったんです」


「本当にそうでしょうか」


そういうと、政宗さんは冷たい目で、私の右手と私の顔を交互に見ている。


「本当です。本当にどこかへいってしまったんです」


「落とした場所はわからないんですか」


「……それは」


「思い当たる節があるんでしょうけど、僕には教えてはくれないようですね。わかりました」


「政宗さん……」


「答えはいつでもいいですから。むつみさんの答え、待ってますから」


そういって政宗さんは部屋を出ていった。

膝から崩れ落ちるように、その場に座り込んだ。

私がいけなかったんだ。

はじめに政義さんに間違ってキスをしてしまったときに、すぐに政宗さんに言わなかったから。

言わなければこうなるってわかっていたことなのに。

どうして政宗さんに話せなかったんだろう。

涙が膝にこぼれ落ちた。

まるで降り出した雨のように、しばらく涙はやむことなく絶えず膝から玄関のたたきへ雫の跡を残していった。