「ははっ、噂通り可愛らしいお嬢さんだ。」

高柳聡一郎は、私とひとたび目を合わせると目を細めて微笑んだ。
それに対抗するように、横に座る征太郎もうっとりしたように私を見つめてくる。

「ああ、おまけに随分と純情で。口説き落とすのに苦労したんだ。」

堂々と惚気るような発言に私の顔はわずかに熱を帯びる。
父親の前で演技をしているに過ぎないことは理解しているのだが、どうにも照れくさく感じてしまうのは止められない。

「ベタ惚れだな。お前にしては、意外だ。」
「自分でも驚いてるよ。でも、こんなに手に入れたいと思った女は初めてだ。」

動機が純粋な情愛ではないにしろ、征太郎が私を手に入れたいと思ったことは間違いない。
だから、この言葉には素直に頷ける。
私も控えめに笑みをこぼして、征太郎と視線を合わせた。
ここまでは、緊張しつつも何とかそれらしく振る舞えていると思う。

しかし、聡一郎氏が途端に呆れたようにため息をもらした。
それに、反応して私の体はわずかに固まる。

「独占欲の強い男は、嫌われるぞ。」

息子に向けて忠告した彼の視線は、私の首から胸元へと注がれていた。
それに気が付いて、私はもう止めようもなく頬が紅潮していくのが分かった。



その視線の先。
私の首筋と鎖骨には、くっきりと赤い花びらのような跡が付けられている。


「誰にも渡したくないんだ。だから、すぐに結婚する。今日はその報告に来た。」

犯人は、もちろん、私の横に座る男である。