「私はうれしい。」

瞼をゆっくり開くと、そこには優しげに微笑む親友の顔があった。

「たとえ、どんな理由でも真依子が少しでも前を向いてくれるなら。」

また彼女は照れくさそうに言った。
アイメイクの出来をチェックしているためか、私は彼女にまっすぐに見つめられている。
やがて、満足げな表情をして、瞳が再び口を開いた。

「私の手で真依子がキレイになっていくのは、最高にいい気分だわ。」
「大袈裟ね。」
「大袈裟なんかじゃないわ。私は今まで腕を磨いて、この日を心待ちにしてたのよ。」
「これからも、よろしくね。」
「もちろんよ。」
「変なことに、巻き込んでごめんね。」
「こちらこそ、いつも変な男捕まえてきてごめんね。」

ややしんみりするようなやり取りも、最後には思わず笑ってしまう一言で締めくくる。
私たち二人は一生シリアスな会話は出来ないのかもしれない。

だけど、いいのだ。
お互いに、すべて分かっている。
本気も冗談も、嘘も真実も。
分かっているから、笑い飛ばせるのだ。

「今日は、私もここ泊まろうかな。」

瞳の嬉しい提案に私は思わず心の中で親指を立てる。

「泊まれるなら、ゆっくり喋りながら飲もうよ。私、当分仕事行けないみたいだし。」
「私は明日、朝一から予約が入ってるんだけど。ここから電車で何分かかるの?」

瞳は私を羨ましそうに見ながら、スマホで電車の乗り換えを調べている。

「でも、泊まるでしょ。」
「まあ、泊まるだろうね。」

結局調べ終わらないうちに確認すると、瞳はあっさり肯定した。



けれども。
またしても、この夜、私たちがまったりと語り合うことはなかった。