「……ぃ…き……ろ…」


大智の声が微かに聞こえ、体も揺さぶられた。
ゆっくりとまぶたを上げると同時に顔に覆いかぶさっていたパーカーも取られて目の前には大智の顔。


ち、近い……

大智は多分、イケメンの部類とやらに入る顔でキリリとした眉がとてもかっこいい。

「おい、起きろ。もう着くから降りる準備しろって武藤(むとう)がうるせーんだよ」

「……分かったから…とりあえず、もう少し離れて」


武藤とは私たちのクラス担任だ。数学教師で教えるのがとてもうまい。既に結婚をしていて、三人の子供もち。奥さん…凄く美人で…何で結婚したのか…これは私たちのクラスの七不思議のうちの一つに入る。


そんなことを考えてる間も大智の顔は近いままなので、思わず目をそらす。
ーー顔…赤くなってるかも…


「………咲弥、」

大智が優しく私の頰に手を置いた。

「…ちょ…!た、…い…ち」


ブワっと顔が一気に熱くなる。



「まつげ、抜けてんぞ」

ニヤリと笑って親指の腹で私の目の下あたりをなぞった。






サァァーーーーー

頭の中にまた映像が流れる





「______……泣いたのか……?」

顔が凄く近い。そして前回と違うのが、私の"視点"ということ。恐らく、これはあの桜の木下にいた女の人だろう。紺色の袴を着た男の人が頬を親指の腹でなぞる。




「泣いてなんて…いません…_____くん」













「…咲弥、咲弥!!」

「……あ、ごめ…」

「なにボケっとしてんだよ。もう降りるぞ!
荷物持てよ」


立ち上がり、荷物を持ち始める。



ーーあの二人…何かあったのかな…?


どうしても、他人事のようには思えない




**
武藤 吉光 (むとう よしみつ)
数学教師。咲弥達のクラス担任。