足元に置かれた鞄の中から、侑壱が取り出したのは。

近年いつも見ているカラフルなボールより、ひとまわり小さい・・・サッカーボール。

白と黒の最もシンプルなデザインのそれは・・・父が幼少期から買い揃えていたサッカー漫画の中で使われていた、憧れのボールでもあった。

1年生から、卒団するまでの6年間。
グラウンドで泥だらけになろうが、人工芝のチップで…黒の線が入ろうが、ずっと使い続けた私にとって、とても思い入れのある物だった。

「『足に使われた』のは、ある意味俺もボールも同じか」

侑壱はくすっと笑って。それを自身の足元にポトンと落とす。

「よ・・・っ、と」

足先で、ちょんちょん、とリフティングしながら

「これ、全然空気ねえっ」と腕でバランスをとると・・・

「ヘディングだけはすんなよ?頭ぱっくりいくからな」と、最後に山なりにぽーん、と、軽くボールを蹴りあげた。


ベッドの上に、弾むこともなく。
ボールはぽすっと収まった。

ミサンガをつけた右足を、ほんの少し浮かせてしまったのは・・・トラップしようと条件反射が働いたらしい。が、それはボールが到達した後の話だ。

もう、皮がボロボロに剥げた・・・黄ばんだボールだった。

頭を動かすのがまだ怖くて、そっと、できるだけそうっと、自分の足元の方へと視線を移す。


白の六角形と黒の五角形の集合体。とりわけ、白の面に・・・ごちゃごちゃとした、黒の点々が見てとれた。

「あ・・・、そうだ」

そう、だった。

このボールは、6年間の全てが詰まったボール。
皆で互いに交換しあいながら・・・それぞれに宛てた、メッセージを書いていたのだった。

「懐かしいなあ~・・・。どこに置いてあった?」

「家ん中どこにもなくて、一応ガレージも探したら奥~の方に、サッカーネットに入ってぶら下げられてた」

「ごめん、そうだったんだ・・・あ!もしかして、午前中の講義・・・」

「サッカーさえできれば、俺は別に」

「ごめん。私、このボールのこと忘れてた。だから今、凄く懐かしいし、もの凄~く、嬉しい。ありがとう侑壱」

「『ありがとう』、ね。まま、感謝すべきは俺にじゃないような気もするけどありがたーく受け取って、倍にして返して貰おうかな」

「ナニソレ」

「ホワイトデーはゴデ〇バのチョコでオッケー。」

「・・・・・・」

「安いもんだろ?」

「・・・・・?あれ。前もそんな会話した?」

「ハ?いや?」

「だよね」

頭の中でドクン、とひとつ・・・脈が打った。