手元に残された、サッカーボール。


『逆取り』
『るいには見えてるだろ?俺のいる場所』

見えてる?

私は目を凝らして…ボールをまた、回転させていく。

「……逆?……裏を、とる?」

常に首を振って、間接視野を研ぎ澄ませ…
味方の状況を常に把握して。見えた狭いコースへと楔のパスを供給するのが…私の大きな役割であり、得意とするプレーでもあった。

ミドリのいる、その気配を感じとることは…阿吽の呼吸。
当たり前、のことだ。



「………ん?」

狭い通路を抜け、窓際の比較的日当たりの良い場所へと移動したその時に。


私は、ボールを回転させるその手を…ピタリ、と止めた。



それは……

かろうじて『見える』のだけれど。
「……アホじゃん。………読めないし」

そう、誰が読めるんだっていう……達筆ならぬ、何かの暗号みたいな、砕けた文字。


白の六角形には、ありんこみたいに、小さな文字の羅列が並んでいる、その反対…。

ある、ひとつの『黒』の五角形に……


多分、おそらく…今唯一ここに存在しているのであろう、

『間宮 碧』の…サイン。


見えにくいし、雑だし、読めないけれど…『#9』と下の方に小さく書かれているのだからきっと、間違いない。


いつも近くにいて。
それでいて、遠くにいた……あの背中。

いつも見ていた、ユニフォーム背番号『9』。


「ミドリらしい、か」


別れの言葉もなく、足早に去っていった理由は…もうひとつあった。


きっと君のことだから…

私がコレに気づいたら、それはそれで…恥ずかしくなって、その場に留まることは気まずかったのだろう。


度胸があるのに、シャイで、読みづらい……



ちょっと不器用な、天才少年。


夢への1歩を踏み出す、その決意を。
相棒に、伝えたかったんだよね…?