抱きしめる力を強くさせた楓に、ドクっと心臓が揺れる。
「…ありがとう」
楓の背中に手を回して、礼を言った。
すると楓はふっ、と笑って。
「そろそろ戻るか」
抱きしめていた腕を離した。
「そう、だね」
ものたりない、と思うのは気のせいだろうか。
「ん、じゃあ行くぞ」
いつものように強引じゃなく、優しく包み込む手を今日はめずらしく握り返す。
なんとなく。
離れたくない、と思ったから。
「あとで海人達にしつこく聞かれそうだな」
「なんで?」
「こっちの話だ。しっかり捕まっとけよ」
「はーい」
再びブォンと音をたてて、海をあとにした。