『玄関まで送る』という俺をやんわり断り、凪子は途中でチャリを降りた。

赤い目をして「ありがとう」って笑い、自転車のカゴからカバンを取り黙って俺の顔を見る。


離れたくない

ずっとずっと……一緒にいたい。

互いの想いが言葉になるなら
そんな言葉が出るだろう。

「部活サボらせちゃった」

「別にいい」

戻ったら地獄だけど
それ以上の何かを得た気がする。

「西久保君」

「うん?」

「颯大君って呼んでいい?」

「……いいよ」

「よかった」

ホッとしたように笑う顔が愛しい。

本当は俺も言いたかった
『凪子って呼んでいい?』って
でも恥ずかしくて言えなかった。

「颯大君」

「ん?」

平然と返事するけど
名前で呼ばれてドキッとする俺。

「気持ち悪いの見せてごめんね」

凪子は自分の腕に目線を落した。

ほっそりとした白い腕に
みみずばれのような
無数の傷跡。

「気持ち悪いなんて言ってないだろ」

「学校のみんなが噂してるよね。須田凪子はいつも長袖。どんなに暑い日でも長袖ブラウス。体育の時は長袖ジャージ。その理由はリスカの痕が無数にあるから」

知ってたんだ。

「事実なの」

凪子はカバンを地面に置き
そっと自分の腕をめくりあげる。