「ごめん」
反射的に手を離し俺は謝る。
「……いいの」
さっきまでの意気込みが消え
凪子は下を向きブラウスの袖を引っ張る。
体育館からの視線を感じる。
色々と見られてるかも。
きっと七瀬の冷たい視線も含んでる。
ええい!
もういいや!
「俺が送る」
下を向いたままの凪子に声をかけた。
「ひとりで帰るから大丈夫」
俺の気合の入った大きな声と周りの視線を感じながら、凪子は首を横に振った。
「送る」
凪子の持ってるカバンを奪い
「すいません。途中抜けます!」体育館の入口に戻って卓球部に叫び、生徒玄関まで先に歩く。
凪子は俺の後ろを小走りで追いかける。
そのチョコチョコ歩く姿を想像すると、この状態でもなぜか笑える。
「背中が笑ってる」
鋭く言われてもっとウケる。
「西久保君って変だよね」
誰もいない生徒玄関に到着し
凪子は俺に微笑む。
黒い髪がキラキラして
吸いこまれそうな澄んだ綺麗な目をしていた。
「なんで?」
「こんな私に関わってるから」
凪子は自分の靴箱を開き「あ、今日は靴がある」って楽しそうに笑った。
「須田も変だよ」
「どうして?」
「いつもそんなふうに笑えばいいのに」
「……西久保君といる時の私が変なんだよ」
わからない事を言い
凪子は靴を履き
先に歩き出した。