「帰ろう。凪子、今日はひとりで帰って」

冷たく須田海斗はそう言い
松本は嬉しそうに赤くなりうつむく。

「お兄ちゃん!」

捨てられた子犬のように
須田凪子は立ち去る二人を追いかけようとするけれど、2人は冷たく振り返らない。

妹命の須田海斗も
あんな冷たい表情するんだ

やっぱ
松本の方が大切か

須田海斗も凪子のワガママに振り回されたり、子守に疲れたストレスもあるのだろうか。

「西久保君止めて」
こっちはこっちで
切羽詰まった顔で俺に訴える。

綺麗な顔が鬼気迫る。

そんなに?ブラコン?

「お願い。松本さんを連れて来て」

「いや、それ無理」

幸せ絶頂の松本を連れ戻すなんて
絶対無理!
松本に殺される。

「私が行く」

「いやちょっと待って」

初めて見るほどの機敏な動きに俺は慌てて、つい彼女の手をつかむと

そのはずみに

彼女の細い手首から
長袖のブラウスがめくれてしまい

上に行くたびに本数が多くなる
細い細い傷跡が
びっしりと白い腕に密集していた。

凪子がどんなに暑くても長袖を着るのは
リスカの痕を隠すため。

その事実を
今、自分の目に刻む。