すっかり遅くなって、もう地下鉄はなかった。

真理子は、地下鉄の同じ沿線上に住んでいる槇村と、タクシーに乗る。

いつもの事だ。

「松本さん、いい子そうだね。」

槇村は、すっかり出来上がっていた。

「そうだなぁ。ああいう、しっかりした子が入って良かったな。」

松本を気に入ったらしいのは、態度を見ていれば、分かった。

「酒も強いみたいだし…。」

槇村は、真理子の視線に気付かない。

これも、いつもの事だ。

槇村は、松本の事や、その彼氏の事を、ぽつりぽつりと話す。

真理子は、酔っ払った頭を回転させて、答えていた。

槇村が、頭の回転が悪い子を嫌う事を知っているから…。



真理子のマンションが近付いてくる。


「そこ、右に入って下さい。」

慣れた調子で、槇村がマンションへと導く。

「んじゃ、また来週な~。」

「ん。お疲れ~。」

真理子は、お金を置いてタクシーを降りる。

そのまま、タクシーは走り出す。



真理子は、しばらく小さくなるタクシーを見ていた。


そんな自分が、少しおかしかった。


ふっと笑って、マンションへと歩き出した。