コップいっぱいのジュースをずずずと飲み干して志和は言った。その顔は笑っておらず、少し困ったような表情だった。

「不思議だよね、人間って望んで生まれることなどできない。宗教によっては、赤ちゃんは望んで生まれてくるって言うけど、望まれて生まれることすら、稀だよね。それに、下手すると望んでるのに生まれなかったりもする」


志和はジュースの氷をカランコロンとかき混ぜる。完全に菜穂に心を開いたのか、視線を常に前に合わせずに、好きなところ……花々に視線をやっている。


きれいな黒髪は天使の輪ができていて、手入れが行き届いてるのがわかる。肌だってすべすべつやつやで、菜穂から見たら嫉妬ものだ。にきびなんてできたことないんじゃないか。


「両親は、子供がすぐにほしかったから、兄さんを引き取った。お母様の知り合いのコをね」


彼が言うには、その兄と知り合いも、血がつながってるわけではなく、とある有名人との間に、できた子供が双子で、二人も育てられないと渡されたんだそうな。


有名人との間にできた子なんてスキャンダルものだから、近くで働いていた母親は解雇されて、新しい夫と静かに暮らしているらしい。


そして、津野田が運営する学園は、その兄が通っているらしく、今は志和は私立に、偽名で通っているらしかった。


「大変なんだね」