携帯電話は、確かにほしい。が、料金を考えると、ほしいという勇気など消えうせた。


「いつかは、写真展とか、やってみたい」

 そんなささやかな夢を、志和は語った。家のコネのなしで、が最重要らしかった。

「なれます、志和くんの写真、素敵だから」

「ありがとう、全然なんだけどね」


 志和がうれしそうに見せた笑顔は、今度こそ作り物ではなかった。少し胸がきゅんとするのを感じ、菜穂も思わず笑った。カフェテラスに移動して、席に着く。

「私の夢は、看護婦さんかな。お母さんの面倒見なきゃいけないから、たぶん内職だと思うけど」


「自分のペースで、いいんじゃないかな。自分が不満だったら、仕方ないけど」

思い通りの人生を描けるものこそ、一握りで、たとえ専門学校などに通ってすら、確立が上がるだけだ。

小さなころは、夢描けたものが、年齢をとるほどに現実味を帯びたものへ変わり、どんどん夢のないものへ変わっていく。

お嫁さん、ぐらいじゃないだろうか。目指せばすぐできるのは。


「僕はね、お父様の子ではないんだ。お母様が、お父様の弟と作った子供で、弟さんは勘当された。顔立ちは何とかお父様に似たけど、お母様は、だから僕を避けているし、お父様も、少しめんどくさがってる」