「菜穂ちゃん?」


 菜穂が部屋に入るなりこちらに駆け寄ると、英国紳士のように跪き、手をとって軽く口付けた。

「ひゃあ」


「すごく、似合ってる」

「……そうかな、私にはもったいないと思うんだけど」

「ううん、きっと洋服たちもこんな素敵な女のコに来てもらえて喜んでいるよ」 

志和はごく自然に、ブ男が言ったら殴りかかりたくなるような、そんな台詞を軽く吐いた。

菜穂は顔を紅潮させて、志和を見た。
整いすぎているほど、整った顔立ちだと、改めて思う。

今までこんな近くに住んでいてどうして出会わなかったのか。

出合ったのなら、絶対忘れないビジュアルだというのに。



「あり、がとう……」


かすれるような声で礼を述べると、菜穂は微笑んで後退した。

なんだか、どこかのお姫様になったような気分だった。