「新しいご自宅、ご用意しています」

そういわれて即座に菜穂が想像したのはお城だった。
いけない、それはとってもいけない。今は狭いマンション暮らしだが、たった2人の家族にはそれで十分だった。

「いいです、いりません。そんなにもらう権利も度胸もないんで」

本当は、街にいる女のコのように着飾った遊びたかった。それでも、その思いを振り切って、菜穂は首を横に伏せた。

「本当に、いいんですか?」
「……母ちゃんの世話、しなくちゃいけないんで」
「お母様の?」
「体が弱いんで」

できるだけ長い時間付き添ってあげたい、もしも死んでしまうときは攻めてこの目で見取ってやりたい。

今日だって菜穂は、母の好きなコロッケを買いに出かけたのだ。近所の精肉店で安売りをしていたから。脂っこいものをあまり取れない母にとっては、たまのコロッケは格別なんだそうだ。