一ノ瀬翔は自分の免許証を眺めながら、
少し切なそうな顔を見せた。


「誕生日まで仕事したくねーよ」


その言葉にあたしは吹き出した。

「なにそれ、ホストっぽくない」

「そうそう、俺この仕事向いてねーんだよ」

「よく言うよ、No. 1ホストが。」

「誕生日まで好きでもない女といたくねーもん。」

「ごめんなさいね、その誕生日に一緒にいるのがあたしで!」

「だからラッキーなんだよ。
誕生日に神崎美華に会えるなんて」


一ノ瀬翔がそう言うと、
あたしたちは目が合った。


そして、顔が近づいてくる。




…えっ……




「お客さん、こちらで?」


いいタイミングでの運転手さん。


「あっ、はい!
ありがとうございました!」

あたしは一万円札を出してお釣りももらわずにタクシーから飛び降りた。





びっくりした…。

なにあいつ……。




一ノ瀬翔は完全にあたしのペースを乱す。

慣れてるはずなのに、
ドキドキが止まらない。



これがNo. 1ホストのやり方なんだろう。




「おい。」


その声に振り向く。

「お前、お釣り忘れてるぞ」

「そんなことよりなんであんたまでここで下りてんの?」

「あ、降りちゃった!」

そう言って舌を出す。

「うちは泊めないから」

「ケチ!」

そんなことを言い合ってると

「あ…雪……」




あたしたちは空を見上げた。


雪だ。
初雪。



「わぁ…」



「やっぱ今日ラッキーだわ」

「誕生日に初雪だもんね」


一ノ瀬翔はタバコを吸って空を眺めていた。









吸い込まれそうなほど真っ暗なその目に
真っ白な雪なんて映ってなかった。