「……うぷ」
甘い甘い甘い甘いぃぃ。
あかん……頭が甘いしか考えへん。
温かいうちに食べねばえげつないものが出来上がると必死に掻き込んだ小豆納豆……もとい、島田汁粉。
一人になった今もそれは胃の中で存在を主張し続けている。
取り敢えず今日が非番でほんま良かった。
歩くだけで鼻から小豆が出てきそうやわ……。
そんな逆流衝動をなんとか堪え、ふらふらと井戸に辿り着くと冷たく澄んだ水で口内を洗い流す。
もー今日は飯いらん気ぃする……。
井戸の縁に両手をかけ下に揺れる水面を眺めていた時、廊下の角を曲がってトタトタと浅葱の羽織が現れた。
「あれー? お兄どしたん?んなとこで」
「りんちゃんか……」
「ちょっ! せやから普通に呼べや糞お兄っ!」
途端に頬を赤く染めるおぼこい林五郎はこれから市中巡察に向かうらしい。
故に相手をする時間もなければ、そんな元気もない。
俺は建物へ近づきながら小さな包みを取り出すとそいつに向かって放り投げた。
「土産や」
「へ? あ! あみだ池んとこのやん!」
それを確認するや否やころっと嬉しそうに顔を綻ばせた林五郎の腕をぽんと叩いて縁側へと上がる。
「気ぃつけて行ってき」
「ど、どないしてん!? お兄が露骨に優しいとか有り得んねやけど!?」
ぴと、と額にそいつの手が触れた。
……失礼なやっちゃな。
「熱なんぞないわい! 呆けたことしとらんで早よ行けや」
「だって可笑しいやん! てかほんまに遅れるしもー行くけど、変なもん拾い食いしたらあかんでお兄!」
せんわ!
……まぁ変なもんは確かに食うたが。
言いながらに駆けていく林五郎の背を腕を組んで見送る。
なんやかんやで中々に可愛い義弟を。
ま、よろしゅう頼まれしな。