本人らが別段気にしてはらへんかったし副長もほっとくようにと仰られたからあんま深く追及せんかったけども……うん、納得や。


「ちょっと土方さん、変なこと山崎さんに吹き込まないでくださいよっ。私は別に可笑しな噂なんて流した覚えはありませんてば。見たまま思ったまましか口にしませんっ」


自覚なしが一番罪深いかも知れんな……。


こら確かに言うても無駄や。


「承知致しました」

「もー山崎さんまでそんな顔しないでくださいよっ。承知しなくて結構ですからっ」


膨れた顔で、組んだ俺の腕をぐいぐいと揺さぶる沖田くんはさながら大きな子供だ。


最近の俺はよう餓鬼んちょに懐かれんなぁ。


遠い目でされるがままに揺られていると、土方副長が僅かな驚きを含ませにやりと此方を見た。


「なんだお前ら、知らねぇ間にまた随分打ち解けたな」

「打ち解けたと言うか……」


単に新しいおもちゃを見っけた童が興味津々で遊んどる、ちゅうのとおんなじ気ぃすんねんけど。


「へへーもう土方さんだけの山崎さんじゃないですからねっ」


……。


「やっぱその表現なんとかせぇや! ほんで引っ付くな腕を絡ませんな!!」

「あ! 素の山崎さんだ! やはり此方の言葉は良いですねー是非とも私に教示してくださいっ」

「俺の話は無視かいっ!!」


あかん! 俺にはこの天真爛漫過ぎる男子の相手は出来ん!


ここは申し訳ないが副長に助け船を……。


「て、おらんっ!?」

「あ、土方さんなら向こうに歩いて行きましたよ」


……贄ですね……あのにやりはええ贄見ぃつけたの意やったんですねぇっ!


ひどいっ、ひどいわふくちょー!


いや待ち! きっとこれは三十六計逃げるに如かずっちゅうことを俺に説いているに違いない!


だって敵前逃亡やない、味方前逃亡やもん!


「すみません沖田助勤、私も所用を思い出したのでこれで。上方言葉はまた追々に。では失礼しますっ!」

「あ」


ひらり沖田くんの腕をかわし屋根へ上がると直ぐ様その場をあとにする。



その日の夕餉の席、沖田くんからしつこく『屋根の上がり方教えてくださいっ』と懇願されたことは言うまでもない。