「すっきりしたみたいだな」
「え?」
纏った暗雲を振り払うように土方副長は息を吐くとその鋭い瞳を僅かに緩め、懐手に俺を見る。
その背に見える梅の花がまるで一枚の浮世絵の如くその人を彩った。
「此処にいるからには自由にしろとは言えねぇがよ、んな必死に自分を追い込む必要もねぇ。無理してっといつかは壊れる。お前みてぇな有能な隊士をそう簡単に手放す程俺は甘くねぇぞ」
……俺が心の片隅で大坂に来ることに怯えてたんを、この人は気が付いてはったんやろか。
あれは……暇は、そこまで考えてのことやったんか。
言い方こそ素っ気なく冷たいものであれど、その言葉は心底温かい。
十二分に甘いし。やはり、このお方はお優しい。
「なんだよ」
「いえ、改めて偉大なる我が君に付いていこうと決意したまでです」
「あー……だから俺はそういう柄じゃねぇんだよ。お前は隊士であって俺の家来じゃねぇ」
沸き上がる思いに目を細めればその人は照れたように頭を掻いて目を逸らす。
普段は滅多に見れないそんな仕草も、副長本来の温かなお心故。
ついつい頬を緩めていると、その大きく無骨な掌が視界を塞ぐように俺の額を鷲掴んだ。
「もう用はねぇんだろ、さっさとどっか行け」
みしみしと容赦なく締め上げるその手に、俺は慌てて口を開く。
「あの、これを……」
差し出したのは小さな紙包み。
「あ? んだこれ、梅鉢紋?」
それを手に取るとその人はやはり先ず包みに押された判を眺めた。
「大坂のおこしには皆その御紋が添えられているんです。梅と言えば副長だと思いましたのでお一つ如何かと」
丁度梅の頃やし。
くらくらと眩む目に眉間を押さえながらもなんとかそう言えば副長は意外そうに目を丸くする。
「……おう、そりゃ有り難うよ」
……なんか変かいなぁ?
「ふふ、やっぱり山崎さんって結構お茶目さんですね」