はらり


雪のように白い花弁が風に乗って地へと舞い降りる。


細い枝に咲き誇るその可憐な花の様子からは思いもよらぬ程にこの木は逞しい。


手折られても枯れることなく更に力強く咲き続ける、古来より愛でられ続けた美しい花。


そんな春の訪れを告げる愛らしい白雪の花を見つめる美丈夫の邪魔にならぬよう、密やかに近づきそっと声をかけた。



「『梅一輪一輪ほどの暖かさ』、ですね」

「っ!?」


が、どうやら驚かせてしまったらしい。


びくりと肩を揺らしたその人は流石の身のこなしで此方を振り返った。


「や、山崎、戻ったのか」

「はい先程。お暇頂き有り難う御座いました。すみません、歌を詠んでおられるかと思い極力空気を壊さぬようにと思ったのですが……」

「ゴホンゴホンッ!! ……あー……それは服部嵐雪の歌だな」


大袈裟に咳払いをすると土方副長は俺の口にした歌に話を戻す。


「ええ、やはり土方副長はご存じでしたね。梅を眺める副長を目にしたところ、ふと頭に浮かびまして。『梅の花一輪咲いても梅」
「わあぁあぁぁっ!! いい! 言うな!! わかった! わかったから!!」


……はうめ。の歌に掛けてみたんやけど。


なんでまたそない必死に隠さはるんやろか。かいらして結構ええ歌や思うねんけどなぁ。


「副長の歌は素朴で人間味に溢れ、とても素晴らしいと思いますが」

「……そ、そうか?」

「ええ、確かに技巧に秀でたとは言えませんが私は好きです」

「……そ、そうか……」


な、なんかめっさ暗なってもーたんやけどっ!?


ほ、ほんまのこと言い過ぎたやろか。