「そろそろ行こうかね」


マスターの声で店を出て、桟橋に向かった。


昼間のにぎやかな海とは違い、夕方の海はなんだか手を広げて抱きしめてしまいたくなるような静けさと切なさを帯びていた。


同じ海なのに、浜辺によせる波も引いて行くのをためらっているみたいで、潮騒もどこか
遠くの者に聞かせているように響く。


暑く、人々の肌を元気よく照らしていた太陽さえも、海の切なさを感じているみたいに、夕焼け色に海を照らしていた。


「…はじめて見た。海に太陽が沈むところ」


「すごいね。朱音色の海」


みんなの瞳も赤く染まる。


しばらく何も話すことができないくらいその風景は美しかった。