もちろん私のことだって航太にすべて知ってほしいとは思わない。


誰にだって、過去はある。


それまでの生きてきた道があるからこそ、その人がいるのだ。


わかってはいるけれど、その道に自分がいなかったことがさみしい。


駅までの、帰り道につないだ航太の手を私は強く握った。


「ごめん、不安にさせちゃったかな?」


『…』


「和奏が大好きだ。俺の大切な人だから」


『…うん…』


航太は私を、ぎゅっと抱き寄せ頭をなでてくれた。


『ありがと。私、航太になでてもらうのすごく好き』


「じゃあ、もっといい子いい子してあげる」


『なにいってるの?』


笑いながら、私は航太の胸に頭をつけ、まわした腕に力をいれた。


航太の心臓の音が聞こえる。


『もっと、ギュッとして』


頭をなでてくれた航太の手は、私の頬を包み込み、耳たぶをやさしくさわった。


「…キスしてもいい?」


『みんなに見られちゃうかもよ…』


わざとふざけてみたけれど航太は黙ってキスをした。


いつもより長いキス。


離れようとしても航太は強く抱きしめる。


『…いたいよ。航太…』


航太の舌が私の舌を見つけて絡み合う。


何度も、何度も、航太は唇を寄せ、唇を吸い、唇を重ねた。


激しい熱いキスなはずなのに、なんだか切なく苦しいキスだった。