「俺がこどもだった頃、そう呼ばれてたんですよ。あの辺りは道が複雑で、途中で行き止まりだったり、細くなったりしてたんで。」
「それにしても、あんな場所に喫茶店建てるなんて……」
斉藤君が言葉につまる。その先、何が言いたいのかは、私にも予想がついた。
つまり、こういうことだ。
あんな場所に喫茶店を建てて客は来ているのか?と。
「お客はあんまり来ないね。でも、潰れるってほど、悪くもないから大丈夫だよ。」
私に予想がつくなら、喫茶店のマスターにも予想がつくのは当然。
さらりと答えるということは、何度も聞かれたことがあるのかもしれない。
「おっと、長い間仕事の邪魔をしてごめん。それじゃあ、明日の朝また来るから。」
そう言って、すれ違った、マスターからはバターの匂いがしていて。
そして、それは、昔のお母さんの匂いに良く似ていて、ちょっと泣きそうになった。