「道が無いぞ。この森に入るのか?」

「ええ。入ってすぐに小さな遺跡があります。そこです。ですが……」

この森にはとある魔術が施されているらしい。
足を踏み入れ真っ直ぐに突き進んでも、いつの間にやら元の入口に戻る、と言う古典的なものであるとか。
そうであれば当然、このままその遺跡に向かっても意味などない。
今踏んでいる土をもう一度踏むだけだ。

「……その魔術を解くために、貴公か?」

「ああいえ、この魔術を潜るにはある手順を踏めばいいだけなのです。まぁ、正確には魔術ではないのですが」

この手の魔術はただでさえ土地の力を借りている場合が多く、強力であるものが多い。
それを解除しようと試みれば相応の魔術への理解、そして素養も必要だし、何より体力を使う。

しかしその上、この森にかけられているものは土地の力に頼った魔術ではない、王曰く、竜の放つ結界なのだそうだ。
ドラゴンの目撃例が圧倒的に少ないのは、これに起因するのだろう。
これを人間如きが解除すると言うには些か無謀であると言って間違いない。

だが、誰が見つけたのかこれが竜の結界であると言うからこその、小さな抜け道があった。

「これを飲んでください」

「……何だこれは?」

「リザードマンの爪を煎じたもの……いわゆるこの結界を突破する為の薬のようなものです」

小さな筒に入っている。
それを彼に手渡した。

「……なるほど。リザードマンは竜の末裔であると言われるが……同胞の力」