ヴォルテールがこの任を請けるにあたって、彼を笑い、侮蔑する者は絶えなかったと言う。
それは彼が以前から同僚達の嫉妬の対象であったことに起因し、裏を返せばそれだけ彼が優秀であった事に他ならないのだろう。

私達の暮らすこの国は、もう長く戦の無い平和な国だ。
戦が無いということはそれだけ、兵達にとっての出世の道幅も狭い。
この時世の兵達に兵としての仕事は無く、もっぱら国土の治安維持部隊としての役割の方が大きいばかりである。

そんな折、しかしそれでも兵士として志願したからには、誰しもが戦功を上げたいと口にするのは性というものなのだろう。
当然、ヴォルテールもそうだったに違いない。
磨いた剣術も生かせぬままに腐りゆくのが見え、不謹慎と思いつつもその平和に安穏も揺らいでいた事だろう。
しかしどうして現状その為には、比較的魔物の被害が多い地方に配属される他無かった。

しかし地方とて必ずしも戦功になるような魔物が現れる保証はない。
どころか、更なる平穏に埋もれて老いていく可能性の方が大きいくらいだった。
それはとどのつまり少々大きな博打でしかないわけであって、だからこそ誰もが口を揃えてヴォルテールのその運を妬んだのである。

その点で言えばその通りで、確かにヴォルテールの運が良かったのは事実だろう。
意を決して地方の配属を受け入れ、そこへ向かう頃。
たまたま現地の村を滅多に見れないような凶暴な魔物が襲ったのだ。

当然、しばらくして去る予定だった前任の兵は、それはもう勇んで魔物に挑んだが返り討ちに合った。
そしていよいよ村にも被害が及ぶかといったところ、間がよく到着したヴォルテールがさらりとそれを討ったと言う。
並大抵の兵では歯がたたない魔物であったとは言えよくもそんなものが現れてくれたのは、腕の立ったヴォルテールにとっての僥倖であったと言えよう。

そしてそれからはトントン拍子だ。
その腕を買われた彼は各地に出没した凶暴な魔物の討伐を命じられてゆき、次々とそれを討ち倒して瞬く間に戦功を、そして名声を上げていく。

だからこそその成り上がり故に、周りは自身が魔物達を討伐できるかなど外に置いてヴォルテールが運のみで名声を得たなどとのたまうのだ。
それを突いての今回の任務で、同情する者も、或いは重ねて、侮蔑する者もいる訳である。