「大きくなったわね。いねこちゃん。龍斗くん」




賑やかな大きな部屋に
酒を交わす大人たち



の中に




体を震わせる私と
寝起きなのに寝呆ける様子もなく冷静な彼。


「ひ、ひいおばあちゃんこそ!元気で何よりだよ!」


私の空回りな姿にひいおばあちゃんはくすりとわらった。


「俺も元気です。長い間会えなくてすいません」


そのセリフは演技ではない
彼の言葉。


今、私と彼は
ひいおばあちゃんと向かい合って座っている。


どうしてこうなったかというと...



少し戻ってみよう。
私もここでどうして山崎龍斗くんと並んでいるのか
少しばかり記憶が飛んでいる。





あの時、盛大に龍斗くんの胸へ転び飛び込んだ私は、終始おほしさまが飛んでいた。


『大丈夫それ?』


『ぇ?』


ハッと我に帰ると、眠たそうに彼は続けた。


『スカートめくれてるよ』



心臓が飛び出たと思った。


「ぅーーーーーーっ!?」


言葉にならない悲鳴をあげ私はスカートを見る。


......と、同時に



『あはははっはっ!』



部屋に響き渡る笑い声が聞こえた。

声の主はもちろん私ではなくて
この部屋にいるのはただ二人。


ケラケラと笑う男の子の声に私はスカートを見る間も忘れて顔を再度あげた。


『....何笑ってるんですか』



そう問いかける先は、前髪をくしゃっと触り、必死に笑いをこらえる
龍斗くんに向けられる。



『いや、いいからみてよ』


ちょんちょんと舌を指差す彼に私はしぶしぶ頭を下げた。



『......最低』



床に目を落とすと、自分の履いていたものがスカートである事、

そして、めくれていないことが分かった。


『まんまとはめられてるじゃん。面白いね従兄弟ちゃん』



『従兄弟ちゃんじゃないですけど』



ようやく笑いが収まったのか私に投げかける言葉は嫌味にしか聞こえない。


ふっくれた顔で彼を見るけど、


彼はあまりにも綺麗で

つい顔を背けてしまう。


『なんでもいいやー。俺、従兄弟ちゃんのせいで起きちゃったからひいおばあちゃんのとこ行くわ』


『ぁ、えっと...起こしてごめん』


あんなにスヤスヤと子犬のように寝息を立てていたのが嘘みたいに
おおきなあくびをして
彼は私を見下ろすように立ち上がった。



身長180cm



それは俳優、山崎龍斗くんのデータである。



だけど、そのデータとぴったりの
従兄弟の龍斗くんは、




『ねぇ、』


あーやっぱり
俳優の龍斗くんとは
性格とか喋り方とか少し違うような


と、上の空でもんもんしてると

彼は、顔をぐっと近づけて
ニヤリと笑った。




『あ、えっと....なんでしょうか?』



綺麗な顔立ちが近くに寄ってより分かる。



それでも不気味な笑顔を浮かべる彼に私は怯えるだけで


スススススス

と、部屋の隅に逃げる。



『...俺ね』



カタっと、



耳元で小さな音がして目を瞑る。



どうやら、今私は、



俳優、山崎龍斗くん似


のイケメン従兄弟に


肘ドン




という、誰もが憧れるシチュエーションに遭遇しているというわけで、



『いひゃあっ!?』



耳元で違和感を感じ目を開けると、
見えたのは彼の首元。




『...面白いね』



そう呟いた声は

息となって耳元をざわざわさせる。



『や、やめてっください』



グイグイと彼の体を押すけれど、ビクともしないで

見事な腹筋の硬さに


ぼうっと頭が赤くなる。



『むやみやたらに男の体触るんじゃないよ?』



『ちがっ!離して...くださいっ!』



『むりー』



そう言いながら、震える私の手に指を絡ませてくる彼。




ドドドド



心臓が悲鳴をあげて、涙が頬を伝う。




なにこれ!?なにこれ!?




『従兄弟ちゃん、山崎龍斗って知ってる?』



そう、投げかける言葉は太く、切なくて


怖かった。




『あ...えっと...ぁ......はい。』



ここは、はい。といってよかったんだろうか。



『ふぅん』



息を吐くような、彼の深い頷きに
やはりまずいことだったかと後悔を覚える。




『.....ぇっと、いいから離してください』




ジンジンと熱くなる彼と私の手の中。



それが物語っているかのように


.......少しばかり、離れないでと思う自分が

少し...いや、かなり前から入ることは確か。


で、



『俺、俳優の山崎龍斗だけど、
俺、従兄弟の山崎龍斗だから。』




そう吐き捨てると、ゆっくり彼は私から離れていった。




『....へ。』



体から力が抜けて
私はその場にしゃがみ込んだ。


これが、
俳優 山崎龍斗との出会い。