「...なんだよ。忘れたのかよ。」
龍斗くんの目は嫌になるほど澄んでて綺麗。
それに吸い込まれるように見入っていた私の頭上で彼は口を開いた
「......いねこ」
「な、なんですか?」
不意に名前を呼ばれて高ぶる心臓。
落ち着かない。
ああ、私、とんでもないことを言ってしまった?
「...はぁ。
社長、明日出ますよ。いねこに最前列のチケット渡してください。」
へ?
私を少し見て、どこか切なそうに笑った龍斗くんは
私の横に立つ社長さんにそう投げ掛けた。
出る...ってこと?
「ようやく腹くくったわね。ま、当然よ。あなたが出ないと始まらないじゃない。いねこさんは任せなさい」
ニコリと笑うと、私にありがとうと
お礼を述べた。
「そ、んな、私は普通の一般人ですから、遠くの方で見ます。悪いです。」
最前列のチケットをわたす
そう言われて嬉しかった。
一番近くで観れるもの。
だけど、そんなのダメ。
私だって
ただのファンにしか過ぎない。
「いや、いねこは俺を一番近くで見てろ。」
「ダメですっ!」
「は?俺の言うことが聞けないのか?」
私の即座の断りに
眉をひそめた龍斗くん。
怖い。怖いけど龍斗くん。
私が好きなのは知ってるでしょ?
どうしてそんな近くにいろっていうの?
迷惑なだけでしょ。
「いいから、俺の言うこと聞けよ。」
そういう彼に、私は頭を大きく横に振った。
「わ、たしは、遠くで見てるだけでいいん...です。」
どことなく余裕な笑みを浮かばせて彼を見れば
ものすごい血相で私を睨んでいた。
「...俺の彼女だろ。」
ボソッと呟く声が
耳に入った。
途端に
手を引っ張られて社長室から引っ張り出されて、
「龍斗くんっ!?」
「彼氏の言うことも聞けないのか!?あぁ?」
廊下を走り去る龍斗くんに
引っ張られて私も半ば強引に走ってついていく
「えっと...龍斗くん...止まってください。」
「いいから答えろよ。俺の彼女なら
俺の話きけよ。」