『九州コレクションズ ランウェイ』









落ち着いて。




私は心の中でそう唱え続けた。






彼が、私とじゃないと
九州コレクションズには出たくないと言ったのは昨日のことだ。




社長が、私たちを再度部屋に招き入れた時に

龍斗くんが追い打ちをかけるように出したもの。





「......ぇ。」




私と彼女は、驚きを隠せない顔で
同時に彼を見た。




「いいですよ。それなら俺、出ないでこの子と旅行行きます。ほら。」



と、そういった彼は部屋の入り口に顔を振ると、
マネージャーと思われる男の人が
大きなトランクを持って立っていた。





「なるほど、準備万端ということね。」




クスッと笑った彼女は、

睨みつけるように龍斗くんをみた。




「この子が.....初心で出れると思うの?」



「はい。」



「...馬鹿ね。あなただってどんだけここまでくるのも大変か分かってるでしょ?」




「もちろん。」



動揺を隠しきれない彼女にたいして、
あまりにも落ち着いて自分の意志を貫く彼。






「...お願いだから。山崎くん。これはもう無謀ってこと分かってちょうだい。」




「無理です。」



芯の通った低い声が、社長を困惑に招き入れる。




「..事務所のオーディションだったらいつでもしてあげる。だけど...コレクションズには出せない。」



「どうして...ですか。」



はぁ、と、まるでバカにするようにため息をついた彼に私は、
冷や汗が出た。




......さっきから二人が話しているのは私のことだとは、さすがにわかる




けど...




まだ状況が全く...



私がモデルに?
憧れのこの人がいる事務所に?




いやいや、


何かの夢だ。

そうだ...



そう思って、小さく自分のほおをつねった時






「..っいた....!?ってええ!?」




つねったほおは、かなり痛かったけども、



それ以上に、私は彼に体を持って行かれたことで、夢じゃないんだと確認することができた。




ひょいっと軽く、持ち上げられた私の体は宙に浮いて、彼の両腕の上に収まる。




「じゃあ、旅行行ってきますんで。」




そう吐き捨てて、私をお姫様抱っこの状態のまま持って行こうとする彼に




「待ってください!
待ちなさい! 」





綺麗に社長さんとかぶった私の声は、だんだんと消え失せていく。





「.....まずは.........いねこさんのはなしをきかせて。」




「はぁ?」




「彼女の意見も大切よ?」



にこりとわらった彼女だけども


顔はげっそりしていて、考えに考えたのかもしれない。




「......仕方がないな。」




私をゆっくりとおろした彼は、社長を睨みつけた。





.......なにこれ。